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スマホ依存から脳を守る(朝日新書)

2020年6月20日

ゲーム(スマホゲーム)依存症は疾患である、といわれてもピンときません。しかし、筆者の中山秀紀氏は独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターの精神科医長として、確かな情報を元に「スマホ依存症は疾患である」と解説し、その対策を教えてくれます。

4歳の子供をもつ親として、スマホやタブレットPC、あるいはインターネットとの付き合い方をどう教えていくかは頭の痛いところ。本書は参考になる一冊でした。

ゲーム依存は疾患 WHO決定

本書は冒頭、ゲーム依存は疾患であることと、依存症の定義を細かく解説しています。誰もが無理なく読み進められるのは、多少議論が荒くなっても、平易な言葉を選んで説明してくれているからだと思います。そのおかげで、ゲーム依存症が疾患であることにも納得がいきました。

医療、とくに精神医学の代表的な診断基準となっている、国際疾病分類にも電子ゲーム依存症が「ゲーム障害」という疾患として認められる予定です(2022年発効のICD-11から)。また国際疾病分類と並ぶ診断基準とされる、アメリカ精神医学界の「精神障害の診断と統計マニュアル」でも同様の動きがあります。

世界的に見て、ゲーム依存は疾患であると認められる流れにあります。

加えて本書の冒頭では、依存症の定義を①快楽をもたらす、②飽きない(飽きにくい・続けられる)こととしています。インターネットゲーム(をはじめとするスマホ等の利用)には快楽をもたらす作用があり、飽きない(ネタが尽きない)という特徴があるため、この点でもゲーム依存は疾患のひとつと考えられます。

人類の歴史は依存症との戦い

アルコール依存との戦いは有史以前から。薬物依存との戦いも長く続いています。しかも人類が勝利したわけではなく、いまもアルコール依存や薬物依存は続いています。たばこの依存症はだいぶ減ったように見えますが、それでも社会に根付いています。

そのためゲーム依存とも、人類はこの先長く戦い続ける必要があるかもしれません。筆者は依存症への対処について、次のように述べています。

「どんな疾病でも同様ですが、重症になってからでは対応が難しくなるため、可能な限り重症になる前に治療する必要があります。ですからゲーム障害の場合は、診断以前(未病のうち)に対応することが、かなり重要な課題となるのです。」

重症化するとどうなる?

筆者はプライバシーに配慮しつつ、ふたつの事例を挙げています。そのうちのひとつ、16歳男子高校生(タブレット依存・ゲーム障害)のケースでは、昼夜逆転して、起きている間はスマホばかり触っているそうです。

幼少期にはとくに問題はなく、小学校に進んでからも体育以外は優秀な成績で問題なく過ごしていました。中学受験では第二志望の学校に受かり、通学を始めます。

中学二年生でクラス替えがあり、気の合う友人がいなくなってクラス内で孤立しがちになりました。しかも9月頃に生物部の友人とも些細なことから仲違いをしてしまい、部活にも出なくなってしまいます。11月には風邪をひいて一週間ほど学校を休みます。この頃から某シューシングゲームに没頭するようになり、就寝時刻が午前一時を過ぎるようになりました。朝起きることができなくなり(中略)成績も急降下し、冬休みには補習授業を受けることになりましたが、結局行きませんでした。三学期には就寝時刻が深夜二時を過ぎるようになり、週二回のペースで学校を休むようになります。

結局、中学卒業後は通信制の高校に進んだものの、スクーリングにも通わなくなり、ひきこもり生活に。深夜三時頃までシューティングゲームに没頭し、午前六時頃に就寝。起床後には母が作りおいた昼食をとり、夕方またシューティングゲームに没頭……。

ゲーム障害では「ゲームに没頭し、家族とも話をしなくなる、家にひきこもる、昼夜逆転するという判で押したように似たような生活」になるのだといいます。

eスポーツと普通のスポーツの違い

筆者は最近脚光を浴びているeスポーツやユーチューバーといったワードが、依存症対策の障害となり得るとも指摘しています。

eスポーツについては、あの荻上チキ氏でさえ肯定的に捉えていることに違和感を覚えていたのですが、筆者の解説が腑に落ちました。eスポーツで賞金を稼ぐプロになれば職業として成立しますから、一定の社会的評価を得ているような風潮もありますが、スポーツとeスポーツの間には根本的な違いがあります。

スポーツは依存物ではありませんが、eスポーツ(という名のビデオゲーム)は依存物です。プロゲーマーというワードに社会的評価を与えるとすると、単に学業がおろそかになっているだけの依存的なゲームプレイヤーでも、「プロゲーマーを目指している」ということで、あたかも就労訓練をしているように見えるため、周囲の人も批判が困難になります。筆者はこの点をとらえ、プロゲーマーを目指すと語ることが「周囲の批判や自己の罪責感をかわす強固で危険な盾になり、さらに依存症の悪化・長期化をまねく可能性がある」と警鐘を鳴らします。

この後はぜひ本書を

詳しくはぜひ、本書を手に取ってみてください。ゲーム障害の治療の現状や、ネット依存治療キャンププログラムの概要なども記されています。

ことに、ネット依存やゲーム依存は疾病なのかそうでないのか? と疑問に思っていた方には、参考になる内容だと思います。子どもにスマホを渡してしまう行為が、どのような意味を持つのか、考えてみるきっかけになるはずです。

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