科学的な、あるいはデータに基づいた方法でいじめが議論されることはあまりありません。それは国会においても同様で、たとえばいじめに関する法令を論ずるときに、「道徳の時間を増やそう」という話になりがちです。
ところが、2011年の大津市いじめ自殺事件では、自殺の引き金となったいじめは道徳の授業の直後に行われたともいわれています。道徳の授業が役に立つのかどうか、科学的に議論される必要があるにもかかわらず、多くの人々はエビデンスのないあてずっぽうの議論を続けているようです。
タップできるもくじ
データに基づく良書
本書は次のような論点をとらえ、きちんとしたエビデンスを提示した上で、いじめを論理的に語っていきます。たとえば、いじめが発生しやすいホットスポットはどこか? 日本と諸外国でどう違うのか? いじめが発生しやすい時期はいつか? 性別によるいじめの違いはあるのか? どのような教室でいじめが発生しやすいのか?
いじめの発生理由を、いじめる側やいじめられる側の個々人に求めるのではなく、社会的な構造から解き明かしていこうという姿勢は、まさにフェアで論理的だといえます。

たとえば、体罰。ストレッサー説を紹介した上で、体罰の多い教室ではいじめが頻発するという説(鈴木智之「学校における暴力の循環と『いじめ』」(社会労働研究、1998)を紹介し、体罰はむしろ、いじめ防止にマイナスであると強調します。
体罰は暴力に対するゴーサインとなりかねない上に、体罰を行う教師自体が教室にストレスをもたらし、そのストレスがいじめを生んでいきます。
ほかにも様々な、いじめを生む要因が紹介されており、たとえば「連帯責任」や「教師の抑圧的な態度」など、深く考えずに「指導」として行われてきた様々な行動パターンに対する疑問を投げかけていきます。
ネットいじめについての真実
マスコミが好む、「ネットいじめが蔓延し、いじめが見えにくくなった。そして陰湿化している」といった言説にも、論理的に反論がなされています。
アメリカでの調査では、ネットでいじめられている生徒の9割がリアルでもいじめられているというデータなどをもとに、ネットいじめが特殊なものではなく、むしろこれまでのいじめの延長線上にあるものだと主張。裏サイトやSNSでのいじめで匿名性が獲得されるわけではない事なども、あわせて紹介しています。
そこからネットいじめに対する具体的な対策方法にも言及しており、いじめのメカニズムを知るだけではなく、その防止方法を含めたプラグマティックな部分でも注目したい一冊です。もし、お子さんがいじめられているなら、ぜひ手に取ってください。
全国の教員にも、まよわず手に取っていただきたい良書です。