初めてのウクレレを買う時、どんな木材で作られたものを買うべきでしょうか? あえて言うなら、その答えはマホガニーです(注1)。

ウクレレ用の木材としては、コアに次ぐ伝統的な材料ですし、価格もそれほど高くないので、予算内でよいものが買えます。
この記事ではその理由を含めて、さまざまな木材の性質を考えていきます。
「音のイメージ」という主観的なテーマを扱うため、記事作成にあたってはできる限り参考資料にあたり、正確を期しました。
注1……マホガニーが一番無難ということで、スプルースやアカシアも悪くないと思います。詳しくは記事中で解説しています。
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ウクレレに適した木材の性質とは?
実は、多くの物理学者が楽器用木材の音響的性質を研究してきました。論文などを読むと、いい木材のポイントは2つあるようです。
- ヤング率を比重で除した値が大きい(軽くて硬い)
- 内部摩擦が小さい(振動が減衰しにくい)
つまり、軽い割に強く、音がよく鳴り続けるのがよい木材。その点だけを重視するとウクレレ用の木材は数種類に絞られてきます。
トップの材が音を決定づける

ウクレレにはさまざまな部品があり、さまざまな木材が使われていますが、音を決定づけるのはトップ(サウンドボード)です。
アメリカで発行されているギター製作者向けの本「A Guitar Maker's Manual」にもこう書かれています。
The choice of timber for the soudboard is quite obviously critical as this determines, to a large extent, the tone color of the instrument. サウンドボード用の木材の選択は、楽器の音色を大きく左右するためきわめて重要です。
A Guitar Maker's Manual
そこで、一般的にウクレレの使用木材について考える時、サウンドボードにどんな木を使っているのかを第一に見ていきます。
ところで現在のウクレレはブラギーニャとギターという2つのルーツをもっています。そのため、ウクレレ用の木材では、コアとマホガニーという2つの流れがうまれました。
ウクレレの歴史とコア材の関係

1879年8月23日、419名のポルトガル人を乗せた移民船がハワイに到着しました。その移民船によって持ち込まれたブラギーニャという5弦の民族楽器が、ハワイの人々の手でウクレレに作り替えられていきました(注2)。
当時王国だったハワイ。カラカウア王家の人々も、ハワイの文化としてウクレレを重視し、普及を図ります。ハワイのカルチャーと歴史の流れの中で、ハワイ特有のコア材こそがウクレレ用の木材だという伝統も定着していきました。
注2……ハワイに持ち込まれたブラギーニャは5弦ですが、4弦のブラギーニャも存在するようです。
アメリカ本土のウクレレとマホガニー

1910年代後半から、アメリカ本土のギターメーカーであるマーチン社がウクレレを作り始めます。
マーチン社はベーシックなウクレレの製造にマホガニーを使いました。そこからウクレレ用の木材としてマホガニーを使うという流れが生まれます。
ブラギーニャに着想を得たハワイアンがコア材を使い始め、ギターメーカーのマーチン社がマホガニーを使い始めました。2つの主要木材はこのように決まっていきました。
ウクレレに使われる木材とその特徴

ギターであれば主にスプルースかシダーをトップに使いますが、ウクレレではより幅広い材が使われています。
かなり変わった木材を積極的に使うメーカーやビルダーさんもいます。ただ、初めての一本であれば、ウクレレで定評のあるコア(に似ているアカシア)かマホガニー、ギターで定評のあるスプルースを使ったウクレレが無難ではないかと思います。
以下の動画で材の違いによるウクレレの音の違いを比較していますが、実際には材の違いより構造の違いの方が大きいと感じます。
実は生で聴くと叩いた時の音の違いはものすごくわかりやすいのですが、録音で聴くと演奏の方がわかりやすいようです。
コアとコア代替の材料

ハワイアンコアのウクレレはよく「明るくからっとした音」と表現されます。弾いてみると、スプルース並に立ち上がりが速いのに、キンキンした感じがなくてスプルースよりマイルドかなという印象です。
現在、資源保護のためにコアの伐採は禁止されており、価格が高騰しています。そこで、アカシアをコアと偽って販売する例も(とくにメ●カリなどで)見受けられます。
しかし、考えようによっては「アカシアです」と明記して売られているウクレレなら買いだと思います。コアとアカシアの違いは、聴いても意外とわかりません。そもそもほぼ同じ木だからです。
初めての一本に選ぶなら、コアは高すぎるけれど、アカシアのいいウクレレを狙うならありです。音だけでなく、見た目もコアとの違いがほとんどわかりません。

aNueNue aNN-K2……サウンドハウスの販売ページ
上のモデル(aNueNue aNN-K2)は税込・送料込22,000円。アカシア合板を使っていますが、ぱっと見ハワイアンコアにかなり似ています(そもそも同じ種類の木)。初めての一本なら、こういうモデルはアリだと思います。
ウクレレ工房F's ukeさんの過去記事でコアの代わりにウォルナットをテストしていると書かれていました。今後コア代替材料の研究が進むかもしれません。
マーチン社が元祖のマホガニー

マホガニートップのウクレレを叩くと、コアやスプルースに比べて少し詰まった感じの柔らかい音がします。弾くとそこまで大きな差は感じませんが、叩いた時の印象と似ていて、甘めで丸いサウンドが特徴です。
100年以上昔、ギターメーカーのマーチン社があえてウクレレのトップにスプルースでなくマホガニーを使ったのは、コロコロしたウクレレらしいサウンドを出すためだったようです。
たとえば米国AmazonのMartin S1 ukeの商品説明には以下のように書かれています。
Mahogany allows the ukulele to deliver a sweet, warm, and beautiful sound.マホガニーによってウクレレの甘く、暖かく、美しいサウンドが生まれます。
米国Amazon商品解説
現在流通しているウクレレはマホガニー製が多く、そのなかには優秀なモデルもたくさんあります。
「予算内でいろいろ選べる!」という点で、初めての一本には、やはりマホガニー製がおすすめです。
楽器用木材の定番スプルース

スプルースはトウヒ属の木材の総称で、古くからギターやバイオリン、ピアノの響板に使われてきました。
生粋のウクレレ弾きの中には「あれはギター用の材だよね」「ギターっぽいチリンチリンした音だよね」という事で、スプルースを好まない人もいます。
しかしスプルースは楽器用の材として理想的な特徴を備えています。特に高音域での立ち上がりが速く、全体的に鳴りがよい傾向があります。
その結果としてギターやバイオリンのような西洋的なサウンドになりがちですが、それが嫌でなければ、初めての一本にスプルースのウクレレを選ぶのもありです。
メイプルとローズウッド

メイプルやローズウッドはギター製作では通常サイドやバックの材料として使用され、トップに使われることはまれです。
タカハシウクレレのサイトでは、メイプルは「マホガニーに比べると、詰まった音というか、男らしいガツンとした音が持ち味」と書かれています。ところが、材の特性を活かしてうまく組み立てると、繊細なサウンドになるのだそうです。

ローズウッドはかなり硬い材で、ギターのトップに使う事はめったにありませんが、ウクレレのトップに使うと重厚感がある音になります。ASTURIASギターのソロウクレレのページには「インディアンローズ材は、深い響きで心地よく奥行きのある鳴りが特徴です」と書かれています。
確かにローズウッドのウクレレを弾いてみると音に力強さがあり、重厚なイメージが欲しい場合に適していると感じます(注2)。
ただしローズウッドは今後取引量が制限され、希少材となる可能性が高いといわれています。
注2……ローズウッドにもいろいろ種類があり、種類によって音が違います。
その他の木材

その他にもウクレレでは多彩な材が使用されます。柔らかめのマンゴーのウクレレは甘いサウンドといわれます。タカハシウクレレのサイトでは、マンゴーは「マホガニーのような『キラリン』とした部分と、メイプルの『シャラリン』とした部分とを持ち合わせていて、なかなか楽しいトーンです」と説明されています。
他にもピンカド、ジリコテ、ヒノキなど、さまざまな材が使われていますが、初めての一本でこういう材を選ぶ可能性は低いと思います。

オールマイティでよく鳴り、なおかつ入手もしやすい木材の筆頭がマホガニーで、だからこれだけ普及しているのだといえます。
合板か単板かは気にしなくてもよさそう

楽器用の木材(特にサウンドボード)には、単板(一枚板)と合板の2種類があります。

単板は文字通り1枚板ですが、合板は薄くスライスした木材を何層かに貼り合わせています。もちろん合板の方が安く「合板は鳴らないんじゃないか」と思われがちです。
しかし、実験してみると、別に合板だから鳴らないとか単板だからよく鳴るということはありませんでした。
材が違うウクレレで実験!
今回の実験では、すべてソプラノサイズでトップの違うウクレレの音量を測定しました。トップの材の種類は、
- スプルース単板
- ジリコテ合板
- マホガニー合板
の3種類です。
事前予想ではマホガニーの音が一番小さく、スプルース単板が最もよく鳴ると考えていました。ところが、結果はまったく逆でした。

トップの材 | 測定値 | |
Leho LHS-SWR | スプルース単板 | 87.1db |
KALA KA-ZCT | ジリコテ合板 | 87.9db |
KALA KA-J1 | マホガニー合板 | 94.3db |
なんと、一番安いマホガニー合板のウクレレがもっともよく鳴っており、スプルース単板のウクレレが最も音が小さい、という結果でした。
実は最近、楽器用合板の製造技術が進化して、どんどんよくなっているそうです。
一番安いマホガニー合板のウクレレが大健闘したのも、そのせいかもしれません。

サウンドボードにマホガニーの合板を使う国産ウクレレFamous FS-1Gは、実売2万円くらいですが、抜けがよいサウンドで音量も十分です。
Famous FS-1G(サウンドハウス)|参考リンク
やはり、このあたりが狙い目ではないかと思います!
ただし合板だと木材の特性はいかしにくい
通常、合板を作る時は上の図のように木材をかつらむきして、薄くスライスしたものを貼り合わせます。その時強度を確保するため、一般に繊維の方向を変えて(縦横組み合わせて)貼り合わせていきます。
そのため、その材が本来持っている特性が出にくくなる、と言われています。
「どうしてもこの材のこんな響きがほしい」という時は合板でなく、単板が有利です。

単板か合板かのチェック方法
カタログや広告を見るとウクレレの材料が書かれています。通常は木材の種類にプラスして「単板」「合板」と明記されています。
ただし、表記としては「ソリッド」「ラミネート」と書かれていることの方が多く、スペックを見る時はこの点も確認するとよいと思います。
合板 | ソリッド |
単板 | ラミネート |
たとえばスプルース単板なら「ソリッドスプルース」と書かれていることが多いです。
時々、単板か合板か明記されていないことがあります。その場合は別の項目をよく見てみると、「構造:合板」とか「Construction: laminate」と書かれている場合があります。
単板が合板か明記されていない場合、合板のケースが多いです。
予算2万円くらいなら国産のFamous FS-1G

ただし中古のFS-1は避けた方が無難です。10年くらい前のFS-1は詰まった音で、あまりよい印象がありませんでした。Famousを買うなら新品一択です。
予算1万円ならKALA KA-J1

予算1万円で選ぶなら、先ほどの実験で大健闘したマホガニー合板のKALA KA-J1もしくはデザイン違いのKA-15Sをおすすめします。
最近では高分子化学を応用した楽器用合板の研究が進んでおり、実験室レベルでは、安い杉板の合板でブラジリアンローズウッドと同等の性能を発揮することにも成功しています。今後は合板でもすごいウクレレが生み出されるかもしれません。
近くに楽器店があれば試奏してみましょう
もちろん他にも同じ予算でいいウクレレはたくさんあると思います。ここではなみのおと音楽教室の備品であり、弾いたことがあるものだけを紹介しているので、すべてのウクレレをカバーできているわけではありません。可能であれば店頭でいろいろと弾き比べてみてください。
とはいえ初めての一本だと試奏してもピンとこないかも。1~2万円の予算で選ぶなら、上にあげた2モデルにしておくと、少なくとも失敗はありません。
参考文献
「A Guitar Maker's Manual」(Jim Williams)1986年 Hal Leonard Publishing Corporation
「『大人のウクレレ』初歩の初歩 入門」(カイマナ佐藤)2008年 ドレミ出版
タカハシウクレレ工房HP(http://www.takalele.com/index.html)
アストリアスギター・オフィシャルサイト(http://www.asturias.jp/)
木材博物館(https://wood-museum.net/)