ピアノ

電子ピアノの選び方。音楽教室に通うなら、おすすめ機種は?

2020年9月30日

「おうちがマンション」などの理由でアコースティックピアノを置けない生徒さんから「電子ピアノはどれを選べばいいですか?」と尋ねられることがあります。

そこで、島村楽器イオンモール和歌山店さんで、店頭にある電子ピアノをすべて試奏させてもらってきました。その結果、おすすめの機種はこの2台、と考えています。

おすすめの電子ピアノ

  • Roland LX705……最もバランスがよくおすすめの機種(20万円台半ば)
  • Roland HP702……最低限この機種以上が必要(10万円台半ば)

この記事では、その理由や電子ピアノについての補足情報を解説します。

のりこ先生
あくまで今回試奏した中でのおすすめ機種です。今後とも電子ピアノを試奏する機会があれば、この記事もアップデートしていきます。

電子ピアノを発売しているメーカー

主にヤマハ、カワイという2大ピアノメーカーと、ローランド、カシオという電子楽器メーカーが電子ピアノのメーカーとして知られています。各社それぞれ位置づけや考え方に違いがあり、どれを選ぶかはメーカーのカラーも関係してくると思います。

のりこ先生
大手楽器店さんのホームページでは「メーカーにこだわらず機種ごとの特長をみよう」といったアドバイスもあります。ただ、今回試奏した中では「しいていえばローランドがいいのでは?」と、メーカーによる違いが感じられました。

ヤマハ

世界最大の総合楽器メーカーで、電子ピアノの世界シェアも5割。その安心感からヤマハを選ぶ人は多いようです。ホームページの作りとしては、「ピアノ」という大きなカテゴリーの一部に「電子ピアノ」が位置づけられており、そのあたりから垣間見えるのは、やはりアコースティックピアノを重視しているのかな? というイメージ。後述するハイブリッドタイプの電子ピアノでも、鍵盤やハンマーの構造を物理的にアップライトピアノと同じにするなど、アコースティック寄りな姿勢がうかがえます。

カワイ

ヤマハに次ぐ世界シェア第2位のピアノメーカー。国内シェアも第2位です。しかし高価格帯電子ピアノ(9万円以上)に限ってみると、毎年ヤマハとシェアトップが入れ替わるという熾烈な争いをしており、かなり健闘しています。実際に演奏してみても、特に30万円以上のモデルは完成度が高いと感じました。カワイのホームページでは、電子ピアノはアコースティックピアノとは独立したページ構成となっており、力を入れて販売しているように感じられました。

ローランド

シンセサイザーやDTM機器なども製造する、電子楽器メーカー。電子ピアノにも早くから取り組み、1973年にはEP-10というモデルを発売し、翌1974年には鍵盤タッチで強弱をつけられるEP-30を発売しました。さまざまなレビューで「音の立体感や強弱変化はすばらしい」と評価されており、高い技術力を感じさせます。

カシオ

楽器店より家電量販店で販売されることが多いためか、値引き幅が大きくお買い得感が強いカシオの電子ピアノ。コンパクトさを打ち出すモデルを投入するなど、他メーカーとは違う独自路線。とはいえ30年以上の歴史があり、楽器としても十分使えます。ただ、ピアノ教室の練習に対応できる高価格帯モデルはやや手薄で、今回の記事でも個別のモデルには触れていません。

ピアノ教室的な電子ピアノの位置づけ

音楽を楽しむ! ということであれば、気に入った電子ピアノを購入すればよく、予算だけで選んでもかまわないと思います。低価格な楽器でも、十分楽しく弾けるはずです。

ただし、音楽教室に通うとなると、どうしても条件が出てきます。

アコースティックピアノの練習

1722年製クリストフォリのピアノ(ウィキメディアコモンズより)
1722年製クリストフォリのピアノ(ウィキメディアコモンズより)

紀元1700年頃、イタリアのクリストフォリが原型を作ったアコースティックピアノは300年以上の歴史があります。その間積み重ねられてきた製造技術と、それに適応した演奏技術を学ぶとしたら、どうしてもアコースティックピアノに近いモデルを選ぶ必要があります。

そこで、音楽教室に通うための電子ピアノ選びでは、アコースティックピアノと比べて違和感がないことが前提となります。

鍵盤を弾いたときの重さやタッチなどは、気になるポイントです。また「こう弾いたらこういう音が返ってくる」という音のよさも必要なので、ある程度音質がいい機種を選ぶことも前提になります。中には鍵盤に特化したモデルがあり「低価格なのに鍵盤だけは本格派」というケースもあります。でも、本来は「細かいタッチを弾き分けたときにどんな音が返ってくるか」を体感したいので、出てくる音がチープだと練習になりにくいといえます。

弾いたときに違和感のない鍵盤と、出てくる音など、総合的なバランスがよいモデルがおすすめです。

価格帯をどうとらえるか?

今回試奏した機種でも、高ければ高いほどよい楽器だと感じられました。しかし、あまりに高いモデルだと、同じ予算でアコースティックピアノが買えてしまいます。逆に安すぎると、上述したような理由で練習になりません。

価格帯から電子ピアノを選ぶとしたら、「ここがほどよいゾーン」といえるのは20万円台ではないかと思います。

30万円以上の機種は?

カワイCA99等の背面に付けられた木製響板
カワイCA99等の背面に付けられた木製響板

30万円台だと中古のアップライトピアノと競合する価格帯となるため、音を出せる環境であれば「アコースティックピアノを選んだ方がいいかな?」と思います。アップライトピアノとグランドピアノの違いも大きいため、「欲をいえばグランドピアノを選びたい」ともいえます。

30万円台以上の電子ピアノをおすすめするとしたら、予算にはあまり制限がないけれど、大きな音を出せない環境の人。電子ピアノであっても可能な限りアコースティックピアノと違いがない楽器で練習したいということであれば、検討する価値のある価格帯です。今回試奏した電子ピアノも、やはり「高ければ高いほどアコースティックピアノとの違和感がない」「弾いた感じがアコースティックピアノに近い」と感じました。

意外だったのは、30万円以上の価格帯になると各社「ハイブリッド」と銘打っているのですが、どこがハイブリッドなのかはメーカーごとにバラバラな点。ヤマハ(たとえばNU1Xなど)は、鍵盤の動きをハンマーに伝える部分が、アップライトピアノとほとんど同じ構造になっています。一方カワイのハイブリッドモデル(CA99)は、スピーカーの出力を木製響板に伝えるというところがハイブリッド。ヤマハはインプット部分、カワイはアウトプット部分をハイブリッド化しており、全然考え方が違っています。

どのハイブリッド技術がいいの? という質問に対する答えは簡単ではなく、評価の難しさを感じました。ただ、この価格帯であれば、どれを選んでもハズレということはない気がします。あえてひとつ機種をあげるなら、カワイのCA99(島村楽器コラボモデルはCA9900)は弾きやすいと感じました。

20万円台の機種が狙い目

今回試奏してみて、価格と性能のバランスがいいモデルは20万円台に多いと感じました。各メーカーが力を入れている価格帯、ともいわれており、ヤマハなら主力モデルのクラビノーバのなかでもミッドレンジの機種がこの価格帯です。また、ローランドは自社のホームページでこの価格帯のモデルを推しています。

おおむね20万円台の機種以上で鍵盤が樹脂と木のハイブリッド構造となり、弾いたときのタッチもアコースティックピアノに近づいてきます。

今回試奏に同行しました。最初は樹脂の鍵盤に木を貼り付けたハイブリッド構造なんてインチキっぽいなぁと思いましたが、のりこ先生に聞いたら「触ったときのタッチの違いは重要なので、そこは木のほうがいい」といわれて、なるほど! と思いました。あえて内部に樹脂を使うのは、耐久性や工業製品としての均一性、性能確保という意味合いがありそうです。
ヒデ社長

また、この価格帯ではスピーカーが4~6個となり出てくる音が自然に聞こえます。楽器としてのバランスのよさを考えると、これも大事なポイントです。

オーディオマニアならスピーカーの数よりエンクロージャーの設計ではないのか? と思いがちですが、これものりこ先生によれば違っていたようです。おそらく、電子ピアノの場合は至近距離で音が鳴るため、演奏者に楽器としての自然な音を返すためには、ある程度の個数のスピーカーが必要になってくるのだと思います。最低4個、というのは合理的な目安かもしれないですね。
ヒデ社長

全体に「20万円台でこの性能なら納得」という価格と性能のバランスがよいモデルが多い印象でした。それだけでなく、楽器としてのバランスもよくなってくる価格帯です。「こんな風に弾いたらこんな音がでてくる」という期待通りの音をある程度は出せるので、音楽教室でピアノを習うという目的でも満足できそうです。

10万円台は最低ライン

CLP-735
ヤマハのクラビノーバCLP-735。希望小売価格155,000円(税別)

どうしても予算の制限がある、という場合でも「音楽教室でピアノを習う」という目的に対しては、この価格帯が最低ライン。それも、できる限り10万円台後半の機種を選ぶのがいいかなと思います。

ヤマハでいえばクラビノーバのエントリーモデルがこの価格帯に該当します。ローランドだとHP704やHP702が該当します。

10万円以下は避けた方が無難

音楽を楽しみたい! 鍵盤にも少し触れてみたい! ということであれば10万円以下の楽器も全然アリです。この価格帯でも「なかなかいいな」と思うモデルもあります。

しかし、音楽教室に通う前提で考えるとおすすめしづらいといえます。

ピアノの練習では、繊細なタッチで音の変化を弾き分けるような演奏技術も必要になりますが、そういった点で問題があるからです。「おうちのピアノで練習したことが、教室のピアノでできない」「教室のピアノでは弾き分けられるのに、おうちのピアノでできない」ということになると、生徒さんとしても悩んでしまいます。発表会などの本番で使うピアノと違いすぎると、実力を発揮できないかもしれません。

ぜひ、もう少し予算を取って、上位機種を検討してください。

おすすめの2機種

今回はローランドのLX705とHP702がよい、と感じました。この2機種で迷うなら、できる限りLX705を検討してみてほしいと思います。

ローランドLX705がイチオシ

LX705 この機種以上が本当のおすすめ。バランスもいいです。

弾いたときの違和感のなさ、返ってくる音、全体的なバランスのよさを感じました。20万円台で選ぶなら、この機種がよいと思います。キータッチもほどよく、練習しやすいと思います。実売は20万円台半ばくらいです。

他メーカーの電子ピアノに搭載されているのはサンプリング音源ですが、ローランドは唯一モデリング音源を採用しています。しかもモデリング音源なのは、この機種以上です。このあたりもバランスのよさに影響しているのかもしれません。

参考LX705 この機種以上が本当のおすすめ……クリックで商品ページに移動します

モデリング音源はDTMなどでも注目されています。実際の音を取り込んで再生するサンプリング音源と異なり、生楽器の構造上の振動や共振をリアルタイムに演算し、コンピュータで合成した音源で、複雑なアコースティックサウンドに迫るといわれています。高度な演算が要求され、CPU負荷も高いのですが、ローランドでは独自の音源チップを開発することで対応しています。LX705は50万円以上する上位機種(LX708)と同じ音源を搭載している、という点にもお得感があります。
ヒデ社長

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予算の制限があるならローランドHP702

HP702 最低限この機種以上。

「どうしても予算がギリギリな場合の、最低限の1台は?」と尋ねられたら、おそらくこの機種かなと思います。実売は10万円台半ばです。この価格帯ではライバル機種よりも弾きやすく、バランスも良好でした。

ただ、これは2スピーカーのモデルで、出てくる音の聞こえ方にやや違和感があります。可能であれば、4スピーカーのHP704(実勢価格20万円弱)がよいのですが、そう言い始めると結局、もう少しがんばってLX705を買った方が……となるのが悩ましいところ。そこで、ギリギリ最低ラインをHP702に線引きしてみました。

とはいえ、HP702でも無制限の同時発音数やある程度しっかりした鍵盤など、必要最低限の性能を備えています。

参考HP702 最低限この機種以上がおすすめ……クリックで商品ページに移動します

アマゾンのサジェスト(おすすめ機能)でも、類似機種のDP702とともに表示されていることから、売れ筋機種と考えられます。

参考ローランド HP702販売ページ(Amazon)

DP702との違いは?

DP702とHP702の違いは、DP702にBluetooth機能が搭載されていることと、スピーカーが違っていること。DP702は演奏者だけでなく周囲で聞いている人にも、いい音が届くように設計されています。HP702は演奏者にいい音を返すことに特化しています。ピアノの練習をする、という目的を考えると、Bluetooth機能がないのは残念ですが、HP702が適しているといえます。


今回お世話になったのは……

今回試奏させていただいたのは、島村楽器イオンモール和歌山店さん。展示台数が多く、電子ピアノ選びの際は訪問してみる価値ありです。

島村楽器イオンモール和歌山店
和歌山県和歌山市中573 イオンモール和歌山2F
電話:073-480-5750

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