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JASRACと音楽教室

2019年8月25日

憲法学者界の推しメン木村草太教授(個人的に推しメン)が、沖縄タイムスに『憲法の新手』という記事を連載しています。ここ最近の話題は「音楽教室から著作物使用料を取るべきか否か」。JASRACとヤマハ音楽教室の訴訟が話題になっていますが、気鋭の憲法学者がどのように考えるのか、興味深く読みました。

木村教授は憲法の財産権と公共の福祉の観点から、意見を述べています。

憲法第29条は、「財産権は,これを侵してはならない。」と定めていますが、同時に「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」とも規定しています。この点、木村教授は次のように解説しています。

ある人に財産権を認めることは、他の人の自由や権利を制限する効果を持つ。したがって、特定の人の利益だけを守る財産権は不公平であり、社会全体にも大きな不利益を与える。(中略)それゆえ、憲法は、財産権の内容を「法律」で定めること、また、その法律は「公共の福祉に適合する」ものであることを要求する。

木村草太教授

著作者の権利のうち、財産的権利の部分は「財産権」にあたるため、公共の福祉にかなう必要があるはずです。さらに、著作権法の第一条には、この法律の目的を「著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、(中略)もつて文化の発展に寄与することを目的とする。」と定めていますので、公共の福祉にかなう解釈とは、すなわち文化の発展に寄与する解釈である、ということになります。

さて、JASRACの主張は文化の発展に寄与するものでしょうか? 音楽教室のレッスンの場合、通常は受講者が楽譜を購入しています。楽譜には著作権料が含まれていますので、もし著作権者が現在の対価で足りないと考えるなら、楽譜の値段を上げるなどするのが筋だといえます。もしJASRACの主張を認めれば、著作権者が、意に沿わない演奏者や練習者のレッスンを差し止められるようになってしまいますし、それが文化の発展に寄与するとは考えられません。

これがたとえばカラオケであれば、話が違ってきます。カラオケのお客さんが、歌う曲のCDや楽譜を購入しているとは限らず、著作者に対価を支払っていないケースは少なくないでしょう。そこで木村教授は「法律構成には議論の余地があるものの、カラオケ運営主体が、著作権料を支払うべきだ、との結論は妥当」と述べています。

JASRACの主張は、すでに楽譜代などを支払うことで著作者に対価を支払っているのに、重ねて音楽教室から著作権料を徴収しようという、いわば二重取り。これが文化の発展に寄与するとは考えづらいでしょう。


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